子どもだけが許された自由
紫の上はいま、子どもの領域を生きています。
当時、走るという動作は、子どもだけが許された振る舞いでした。糊気(のりけ)が落ちたやわらかな衣を着て、髪もまだ十分に伸びていないので、ゆらゆらと揺れてしまいます。
このときの紫の上は、髪をとかすことをいやがったといいますから、大人の女性のような整った髪ではなかったでしょう。眉もまだ生えたままで、眉墨で引いたものではありませんでした。
衣装に気を遣うこともなく、化粧もせず、立ち居振る舞いにも無頓着でいられるのは、紫の上の心が、大人の約束事に縛られていないからです。それは、子どもだけが許された自由でした。