ヨーグルトが長寿の秘訣?

腸内マイクロバイオータは、どのようにして注目を集めるようになったのでしょうか。それは、ある科学者の先駆的な発想がきっかけでした。

1908年にノーベル生理学・医学賞を受賞したウクライナの微生物学者イリヤ・メチニコフは、免疫のしくみを解明した功績が知られていますが、晩年は、老化に関する研究に取り組んでいました。

大腸に便が滞留することで大腸内に棲んでいる腐敗菌が有害物質を産生し、それが細胞の老化を早め、短命の原因となっているのではないか、と考えるようになったのです。

また、古来ブルガリア地方に100歳以上の人々が多いことに注目し、この地方の食事を調べました。

その結果、他の地方と比較してヨーグルトが愛飲されていることに気づき、ヨーグルトこそが長寿の要因ではないかと考えるに至ったのです。

そこで、ヨーグルトを飲むことで乳酸菌が腸内に棲みつき、有害物質を産生する腸内の腐敗菌を駆逐し、長寿を得ることができるのではないかという「メチニコフのヨーグルト不老長寿説」を唱えました。この説によって、ヨーグルトがヨーロッパで広く普及するようになりました(1-4)。

メチニコフが所属していたパスツール研究所では、1899年に母乳を飲んでいる新生児の糞便からビフィズス菌が発見されており、腸内のビフィズス菌の生態に対する生理作用について研究が行われていました。

ちなみにパスツールは、「細菌の存在なくして生命は成り立たない(Life is not possible without bacteria.)」との名言を残したともいわれています。

これらのことも、メチニコフがヨーグルト不老長寿説を唱えることにつながったのではないかと考えられています。

・参考文献
1-1 Sender R et al., Cell 164, 337-340, 2016.
1-2 Bianconi E et al., Annals of Human Biology 40, 463-471, 2013.
1-3 Tierney BT et al., Cell Host & Microbe 26, 283-295, 2019.
1-4 Metchnikoff E, Essais Optimistes, A. Maloine, Paris, 1907.

※本稿は、『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を再編集したものです。


「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(著:坪井貴司/講談社)

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