リリー・オンコロジー・オン・キャンバス 写真部門入賞『最後の手打ちうどん』
写真部門入選『最後の手打ちうどん』高橋 賢(たかはし さとし)さん
がんと告知された時の不安、がんと共に⽣きる決意、そしてがんの経験を通して変化した⽣き⽅など、⾔葉だけでは伝えきれない想いを絵画・写真・絵⼿紙で表現する「場」があります。がんサバイバーの方の思いが詰まった作品を紹介します。

久しぶりの帰省、そこには痩せた父が

昨年の酷暑の夏、突然、母から連絡があった。「お父さん、咳込みがひどいのでコロナと思って病院に行ったら、肺腺がんのステージ4と診断、余命1年と言われた」かなり動揺していた。

すぐに、東京から神戸に帰った。痩せた父がいた。コロナ期間中、3年帰っていなかった。息子の久しぶりの帰省を心待ちにしていた父は、時折突いて出る激しい咳を隠しながら、故郷の讃岐うどんを自ら打ってふるまってくれた。船乗りで威勢がよかった父は、だいぶん弱って、気弱になっていた。

「3杯くらい食べられるか?お代わりあるからな」

私は、もう白髪が混じる50代になっているけれど、90歳の父にとっての私は、いつまでも10代、20代の子どもだった。