涙をぬぐいながら食べた

思い起こせば、何かあると、父が讃岐うどんを打ってくれた。我が家の特別な料理は、讃岐うどんだった。外国航路の船長だった父は、ほとんど家にいなかった。でも2年に一度くらいの長期休暇には、手打ちで讃岐うどんを作ってくれた。たびたびの手打ちうどんに、他の物も食べたいと思ったけれど、父といえば手打ちうどんだった

もう最後かもしれない。そう思いながら、涙が溢れそうになりながら、うどんを食べた。無骨な切り方、濃い色の出汁、無造作な盛り付け。お店のように綺麗なうどんではないけれど、これが父の讃岐うどんだ。

懐かしさを感じながら一杯食べ終えると、もう一杯食べた。しんどいだろうにすぐにお代わりを用意してくれた。休んでいてと言いたかったけれど、最後かもしれないとの父の思いが伝わってきたので、父の給仕に委ねた。涙が溢れてきたけれど、見せたくなかったので、汗を拭く風で何度も涙をぬぐった。父が望む3杯目は無理だったけれど、父はとても嬉しそうだった。

その後、父の体重は10㎏減った。それでも、最後の望みをかけて闘病が続いている。もしよくなったら今度は、私が作って一緒に食べたいし、私の子にも伝えていきたい。


第14回 リリー・オンコロジー・オン・キャンバス
がんと生きる、わたしの物語。コンテスト 受賞作品一覧

【入選】 
・写真部門   『最後の手打ちうどん
・絵手紙部門   『朝日さす


第13回 リリー・オンコロジー・オン・キャンバス
がんと生きる、わたしの物語。コンテスト 受賞作品一覧

・絵画部門最優秀賞『きらきらゆらゆら悔いなく自分らしく
・絵画部門入選『また逢う日まで
・写真部門最優秀賞『焼きおむすび
・写真部門優秀賞『はじめて並んで歩いた日
・写真部門入選『自然のいのちとわたしの生命(いのち)
・写真部門入選『家族
・絵手紙部門最優秀賞『看護師達
・絵手紙部門優秀賞『大丈夫
・絵手紙部門入選『あなたの分も生きていきます
・絵手紙部門入選『「おいしいね」と言える幸せ