1人として置き去りにしない
藤竹は柳田がディスレクシアだと確信する。ディスレクシアは学習障がいの1つで、全体的な発達には問題がないものの、文字の読み書きには困難がある。
藤竹はこのとき初めて柳田がディスレクシアだと気付いたのではない。以前から分かっていた。柳田をよく見ていたからだ。行動だけでなく、テストの解答欄も出席表も事細かに見ていた。
藤竹は本人にもディスレクシアの可能性が高いと伝えた。ぼう然とした柳田は藤竹に噛み付く。
「なんで教えたんだ! 今さらどうする! なくした物は取り戻せねぇ!」
だが、それは違った。柳田はディスレクシアの人に向けたアプリの入ったタブレットを教室に持ち込むことによって、文章を理解できるようになる。藤竹は柳田に聞こえるように言った。
「ここはあきらめていたものを取り戻す場所なんですよ」
誰もが学ぼうと思ったら、いつだって学べる。早い、遅いはない。藤竹は柳田そう言いたかったのだろう。柳田の小中時代の教師は彼をよく見ていたのだろうか。高校の教師で素行の悪い柳田の退学を止める教師がどれだけいるだろう。
柳田に限らず、藤竹は生徒をよく見ている。1人として置き去りにしない。藤竹は頭脳明晰だが、一番の魅力は教師としての姿勢である。