より高い報酬を求めて移るのは当然

真面目なことを書けば、江戸時代の主従制度って、「君、君足らずとも、臣、臣たれ」ですよね。言い方はあれですが、バカ殿だろうと家来は忠義を尽くす。

たとえば、江戸城中で刀を抜けば当然、家来みなが路頭に迷います。それを知っていて「くたばれ!」と斬りつけてしまった浅野内匠頭の仇を、みんな命を捨てて討ったわけです。

でも、中世はちがう。「君、君たらざれば、臣も臣たる必要なし」なんです。

「なんかウチの殿さま、オレのことよく分かってないな…。じゃあ、ここはもういいか。もっと評価してくれるところに移ります。さようなら」

これが罷り通った。腕に自信の武士ならば、より高い待遇や報酬を求めて他家に移る。「野球選手とは、お金で評価されるもの」と明言したNPBの落合博満選手みたいなものでしょうか。

ですからぼくは、石川数正は本質的に中世武士だった、そう理解します。

その解釈で破綻はありません。ことさらに難しく考える必要は、なし!

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「将軍」の日本史』(著:本郷和人/中公新書ラクレ)

幕府のトップとして武士を率いる「将軍」。源頼朝や徳川家康のように権威・権力を兼ね備え、強力なリーダーシップを発揮した大物だけではない。この国には、くじ引きで選ばれた将軍、子どもが50人いた「オットセイ将軍」、何もしなかったひ弱な将軍もいたのだ。そもそも将軍は誰が決めるのか、何をするのか。おなじみ本郷教授が、時代ごとに区分けされがちなアカデミズムの壁を乗り越えて日本の権力構造の謎に挑む、オドロキの将軍論。