好きなものへの思いが認知症の進行を遅らせる
認知症について、多くの人が誤解をしていることがあります。認知症とは基本的に認知機能が低下するものですが、「うれしい」「悲しい」「腹が立つ」など、人としての感情は変わらないものです。
例えば、読売ジャイアンツファンである認知症の人が、テレビで野球観戦をしているときに選手がホームランを打ったのを見て、「やったぁ!」と喜んだとします。しかし、その10分後にはそのことを忘れてしまいます。
これが認知症ですが、その瞬間のときめきや喜びは、健常者と変わらないのです。
ある本で、認知症の人はいろいろな嫌なことを忘れ、症状が重くなればなるほどニコニコとして、幸福度が上がる人が多いと書いたことがあります。すると、インターネットサイトの書評で「私は幸せそうにしている認知症の人なんて見たことがない」と書き込んだ人がいました。そのような意見は、認知症という病気に対する誤解を助長するもので、非常に残念なものです。
認知症の人でも、おいしいものを食べているときは幸せそうな顔をしますし、うれしいことがあれば喜びます。逆に、介護者にガミガミと怒られれば悲しそうな顔をしますし、嫌なことがあればつらそうな顔をします。
認知症の人は、症状が進行するほど多幸的になることがありますが、それでも嫌なことがあればやっぱりつらいのです。ただ、多くの場合、そのことをすぐに忘れてまたもとのニコニコ顔に戻ることが多いものです。