つまり、認知症になったからといって別の人格になるわけではなく、感情的な側面は健常者と大差ないのです。だからこそ、心からうれしいと感じる瞬間を大切にし、その喜びを引き出すことが進行を遅らせる手立てになることがあります。そこで注目したいのが、推し活です。
認知症というと、記憶力や身体機能の低下を心配する人が多いのですが、最も大きな問題は、前頭葉の機能が低下することによる意欲の低下です。認知症になると意欲がなくなり、そのせいで頭を使わなくなるため、放っておくとますます症状が進行してしまいます。
そのため、本人にどんなに嫌だと言われてもデイサービスに通わせて体を動かしたり、他人との交流を促したりすることが重要なのです。
意欲が低下した認知症の人に、急に「推し活を始めましょう」と言っても、それは到底無理な話です。しかし、もともと好きなものがあるならば、それをなるべく続けさせてあげることが、認知症の進行を遅らせることに繋がる可能性は十分にあります。
例えば、昔から特定の歌手のファンで、長年追いかけてきた人であれば、カラオケでその歌手の歌を歌ったり、日常会話のなかで好きな歌手の話題を出したりすると、すごく喜ぶものです。
昔から競馬が好きな人ならば、お金をかけるか否かは別としても、競馬の試合を観戦することで興奮や楽しみを感じることができて元気でいられます。好きなものがある人のほうが、認知症になってからでもアクティブでいられるのです。
そう考えると、認知症を怖がるより前に、自分が好きなものを見つけることが重要です。さらに、介護が必要となった人に対して、好きなものや夢中になれることを見つけられるようにサポートをすることで、意欲が向上し、認知症の発症や進行の予防に繋がる可能性は十分にあると思います。
※本稿は、『60代から100歳以上まで 人生が楽しくなる「シニア推し活」のすすめ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
『60代から100歳以上まで 人生が楽しくなる「シニア推し活」のすすめ』(著:和田秀樹/KADOKAWA)
《和田秀樹が徹底解説!人生100年時代に必携の「シニア推し活」のすすめ》
現代の生きる糧として注目されている「推し活」。もともとは若者を中心に使われる言葉でしたが、昨今は「幸福寿命」の観点から高齢者に推奨する動きが活発になっています。本書は、そんな「推し活」をテーマに、高齢の方が生き生きと過ごせる習慣を具体的な事例とともにまとめた一冊です。