「今後も表現はさまざまに変化すると思いますが、人間氷川きよしの根本は変わりません」

批判の声も多々あるけれど

最近はジャンルを超えてロックからシャンソンまで歌っていますし、インスタでも従来の演歌のイメージを“突破”しちゃっていますので、「氷川きよしはどこを目指しているのか」というご指摘もあります。「袴を穿いて演歌を歌っていたほうがいい」というご意見もあるし、ネット上には、ただの悪口のような書き込みもたくさんあります。

以前はマイナスの評価を目にするたびに落ち込みましたけど、今はへっちゃら。むしろ、そこまで自分のことを考えてくださっているんだと愛おしさすら感じます。

その方たちを母のような気持ちで包み込んであげたい。私は、老若男女すべて「母であれ」と思っています。大地のような寛容さで包み込む母なる心が人間を、そして世の中を平和にするのだと思います。あ、話がそれましたが、私ももう42歳、「自分がどう生きるか」という確固たるものを持ち、それを信じて前に進めばいいと思っています。

このところ、父から「働き過ぎだから休め、休め」と言われています。心配してくれているというより、私に相手をしてほしいらしいんです。自分だって私が小さいときは、仕事だ仕事だと言って、放ったらかしにしていたくせにねえ。(笑)

でも、今は自分にできる親孝行は何でもしてあげたいと思っています。ただ、親には申し訳ないけれど、幸せの価値観は人それぞれですから。他人と比べたりせず、自分の人生を懸命に歩んでいけたら、それが結局、一番の親孝行になるかなって。

母は、デビュー当時は「誰からも愛されるような人になってほしい」と言っていましたので、その教えを忠実に守ってきました。その母も、今は「これからは誰にどう思われるかなど気にしないで、きよしらしく生きなさい」と言ってくれています。

その言葉を聞いたとき、たとえ世界中が全部敵になったとしても、母だけは味方でいてくれるのだな、と強く実感しました。その母にこたえるためにも、これからの人生を自分らしく生きていきたいと思います。

以前から、いつかきっと“母”をテーマにした歌を歌いたいと考えていて、タイトルも、自分の中で漢字一文字の「母」と決めて機会を待っていました。それが2月にリリースする新曲で実現します。

2月4日に発売された『母』。 Aタイプ、Bタイプ、Cタイプがあり、ジャケットも収録曲も異なる。写真はAタイプ

昨年までの20年間でようやく歌手氷川きよしの骨組みができ、ここから本当の意味で氷川きよしを作る作業、ゼロからの再スタートです。母が産んでくれたところから、私という人間が始まったわけで、いわば自分の原点。母を歌うことで原点に立ち返り、再スタートの第一歩を踏み出そうと思います。

今後も表現はさまざまに変化すると思いますが、人間氷川きよしの根本は変わりません。歌に込める“心”こそが大事だという思いも一貫しています。これからも、一人の人間として歌っていきます。

私がこれまで経験してきた苦悩や悲しさ、そして、それを乗り越えて生きてきたのだというメッセージを歌に込めることで、一人ひとりの個性を大事にする世の中にしていくお手伝いがしたいのです。そしてそれが、歌手氷川きよしに与えられた大切な使命だと、“確信”しています。