信じていた言葉が消えたのだから、これからは自分で自由に言葉を選びたい、と思いました。もちろん10歳の子どもでしたから、そこまではっきり認識したわけではないけれど、感覚的にそう思ったの。これからは、自分の好きなものを選んで、自由に生きていきたいって。

あれから何十年もたった今も、私が暮らしのなかで一番大切にしているのは、まずは自分の言葉を持ち、自由に生きていきたいということなのです。

でも、まさか私が《書く人》になるとは思っていませんでした。結婚してブラジルに渡り、2年暮らして帰ってきたら、大学時代のゼミの先生が「ブラジルの子どものことを書いてみないか」と声をかけてくださった。

東京オリンピックと大阪万博の間くらいの頃で、日本人が国際化を意識した時期だったので、先生は「世界の子どもたち」というシリーズを企画していらしたんです。いざ書き始めたら、すごくおもしろくて楽しくて。それで「一生、書いていこう」と心に決めたのです。

そんなわけで、最初の作品『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』が出版されたのが1970年。あれから55年も経つんですね。

2023年11月には、ゆかりのある東京都江戸川区に、「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」がオープン。字が読めるようになった子どもたちが喜ぶ物語を中心に収蔵し、自由に手に取れる楽しい文学館になりました。私のトレードマークでもある《いちご色》の館内は、いるだけでもワクワクしてもらえるはずです。

これからやりたいことですか? 私は旅が大好きだけど、新型コロナウイルス感染症の影響であまり行けていなくって。国際アンデルセン賞の授与式で18年にギリシャのアテネへ行って、その後、上海と広州に行ったきりです。たまには自分で決めたルーティンを忘れて、どこかに行きたいわね。