(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)

 

江戸のメディア王として、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた人物“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。松前家当主松前道廣を演じるのが、俳優のえなりかずきさんです。道廣は倫理観の欠如した人物。領地である蝦夷地をめぐり、御三卿の一橋治済(生田斗真)と組んで田沼意次(渡辺謙)と政治的な駆け引きを行います。3歳でデビューし、芸歴も長いえなりさんですが、実は大河初出演。普段の温和なイメージとは違うヒール役が話題となっています。えなりさんに道廣役に込めた思いを聞きました。 (取材・文:婦人公論.jp編集部)

悪役は初めて

大河ドラマのオファーをいただいたときは本当にびっくりしましたし、うれしかったです。「どんな役柄でもやります」という気持ちでした。僕はクイズ番組の出演が多いのですが、朝ドラや大河ドラマはテレビ局をまたいで、どこのクイズ番組でも問題になる。プライベートでメイプル超合金のカズレーザーさんとクイズ研究会をご一緒していて、朝ドラや大河の問題が出るたびに「いつか、出たいなぁ」とぼそっとつぶやいていたんです。カズレーザーさんからは「よかったですね」っていうコメントをいただきました。

<松前道廣の初登場は第21回。道廣は家臣の妻を木に縛り付けて火縄銃を発砲。家臣が「どうか妻の代わりに!粗相をしたのは私でございます」と嘆願すると、不気味に微笑んだ。さらに道廣が発砲を続けると、恐怖のあまり妻が気絶。家臣も倒れてしまうと、道廣は「仲の良い夫婦であることよ」と興ざめした様子を見せた。非道な行いと道廣の淡々としたセリフのギャップが道廣の性格を印象付け、SNSで大きな話題となった>

最初に台本を読んだときには、道廣について、「怖い役」「悪大名」「トリッキー」という印象を持ちました。こんなに悪い人物を演じるのは初めてです。

道廣を演じるにあたって、大学時代に使った日本史のノートを引っ張り出しました。道廣の人生を時系列で追いかけてみると、父親が亡くなり、12歳で家督を継がされる。松前藩は名目上1万石とされていますが、お米が全く取れない土地。だから商売で生きていくしかなかった。

お金もあるし、幕府からも距離があるので出し抜いて密貿易もしている。財力もあるし、人脈もある。かわいそうな人だし、当主の重圧の中でどこか感情が壊れてしまったと解釈しています。