ターゲットを取り込み、心理的に逃げ場を失わせる技術
ソ連・ロシアのリクルート手法の根本には「ターゲットを取り込み、心理的に逃げ場を失わせる」という伝統的な技術が揺るぎなく据えられている。
MICELDSの各要素を組み合わせながら、困っている人間には「救済」「支援」を提供して恩義を植え付ける。相手の自尊心を満たして「承認/評価」や「共鳴」を引き出す。そうして十分に依存状態が醸成された段階で、秘密を握って脅すという手段も使えるようにしておく。もしターゲット側の良心が咎めたり疑問が生じたりしても、「自分は正しい行為をしている」という自己正当化の強化も行っておく(7)。
今日ではサイバー空間を通じた個人情報の収集やSNS工作が加わり、ターゲットの弱点や欲求を速やかに把握する手段が格段に増大した。よって、人間心理を軸とするヒュミントはますます巧妙さを増していると言えるかもしれない。
(7)
Andrew, Christopher & Mitrokhin, Vasili『The Sword and the Shield: The Mitrokhin Archive and the Secret History of the KGB』(1999, Basic Books)
Andrew, Christopher & Gordievsky, Oleg『KGB: The Inside Story』(HarperCollins, 1990)
CIA FOIA Electronic Reading Room. <https://www.cia.gov/readingroom/>
※本稿は、『謀略の技術-スパイが実践する籠絡(ヒュミント)の手法』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『謀略の技術-スパイが実践する籠絡(ヒュミント)の手法』(著:稲村悠/中央公論新社)
ソ連KGB、米陸軍や陸軍中野学校の資料やリーク情報などを読み解き、世界に共通するヒュミントの手口を明らかにする。
組織を守るにも、重要な情報を獲得するにもヒュミントを知らなければ始まらない。
組織人必読の一冊だ。




