「もう少し生きたい」と前向きになった言葉

Aさんが退院し、僕が診るようになって2カ月ほどたってのことでした。

退院してきた時、トイレにはなんとか伝い歩きで行けるけれど、ごはんは食べられない……という状態。余命1、2週間と言われて、「家で死にたい」と帰ってきたのです。

僕「2カ月振り返ってどうだった?」
Aさん「私は、先生のおかげで幸せよ」
僕「どうして幸せだった?」
Aさん「子どもらがみんな、『母ちゃん、ありがとう』と言ってくれたから」

退院直後の2カ月前、僕はAさんの子どもたちに、「『母ちゃんありがとう』と言ってあげて」とお願いしました。すると子どもたちがすぐ「母ちゃん、ありがとう」と言葉にしてくれました。

すると彼女は幸せな気持ちになって、「もう少し生きたい」と前向きになったのです。

こうなったら、ここからが僕の出番です。

「じゃあ、歩こう」

 

棺桶まで歩こう』(著:萬田緑平/幻冬舎)