天の虫の大きな愛を感じる

着物の素材といえば、絹が代表的です。京友禅、加賀友禅など友禅にはちりめんの着物地が、結城紬や琉球絣など各産地の着物には紬(つむぎ)が生地として使われています。どちらも素材は絹なのですが、着心地は異なります。

ちりめんは、蚕が創った繭の糸口をつまみ、クルクルとその髪の毛よりも細い、蚕の吐いた糸を解いていきます(=繰る)。そして1本では細すぎるので、何本かを撚って1本の糸(生糸)にして織りなしていきます。

イメージ(写真提供:Photo AC)

紬は、繭が破れるなどして糸がうまく繰れない、いわゆる「くず繭」を活かす着物です。くず繭をお湯の中で広げて乾かして綿のようにして(=真綿)、そこからだ液で水気を含ませながら、綿状になっている絹を細くつないで(=紡ぐ)糸にしていきます。その糸(紡ぎ糸)で織りなしたのが紬です。

ちりめんはつるりとした肌触りで、絹ずれの音が聞こえてきます。一方、紬はごつごつとした感じです。そして紬はだんだん糸が綿状に戻ろうと広がり、温かさを感じさせてくれます。

その日の気分で質感の異なる着物選びを繰り返していると、自分の内なる心の声が聞こえてくるようになります。わたし自身は、リラックスモードの日には紬を好むことが多いです。

絹糸を生み出す虫である、「かいこ」のことを「蚕」「天の虫」と書きます。蚕は雑草を食べてこのうえなく美しい糸をはき、最後にわが身は高タンパク質の食料として捧げる、奉仕の精神の塊のような生き物です。着物生活は、「天の虫」の優しい波動に包まれた毎日なのです。