大切なコレクションを屋根裏に隠していた

お父さんが恐れたのは、厳罰を受けることよりも、大切なコレクションが憲兵に没収されてしまうことだった。

「だから、父はブロマイドの束を屋根裏に隠したの」

そして終戦を迎えて自宅へ戻ると、
「すぐに屋根裏へ上がってね、お父さん。隠していたブロマイドを取り出して来たのよ」

そう言ってぼんこさんは、笑いを噛み殺した。

お父さんが禁止物を隠していたことも、終戦してまっさきにアメリカの娯楽を思い出したことも、私をとても驚かせた。「そんなことは、不謹慎だったのではないか」と考えて、ふと思い出したのは、私が高校生の頃の記憶だった。

学校の校則で、芸能人の写真などの持ち込みは禁止されていたが、私は毎日のように大好きな宝塚スターのブロマイドを教室で眺めていた。友達と盛り上がっていたところを先生に見つかって、私の宝物は没収されてしまった。

職員室でお説教(とても適切なご指導だった)の後にブロマイドを返してもらっても、私は「好きな物を持って来て、何が悪いのだろう」と思い不貞腐れていた。生意気な言い分だったが、その気持ちは純粋だった。これに似た体験をした人は、きっと多くいるだろうと思う。

もちろん、戦時下の統制は、学校の規則などとは比べ物にならないほど苛烈なものだった。しかし、「推し活」という言葉が多くの人たちに馴染んでいる今、危険を顧みず大切なブロマイドを守ったお父さんは、とても身近に感じられる。

意気揚々と屋根裏から降りてきたお父さん、その手に握られていた写真の束を、ぼんこさんはとても鮮明に覚えているそうだ。

ブロマイドの束が屋根裏から戻って来た時、ぼんこさん一家の「日常」が再び動き出したのかもしれない。

洒落たタキシードやドレスをまとった銀幕のスターたちは、戦前と少しも変わらない粋なポーズで、ぼんこさんたちにウィンクをおくっていた。