終戦直後から再び映画館へ

戦争が終わると、アメリカの映画が次々に日本にやって来たのだと、ぼんこさんは目を輝かせて回想する。

日本各地の劇場でハリウッド映画が上映されていた。大小の劇場は上流階級の人たちや文化人たちだけではなく、学生、労働者など様々な人たちで満員になったという。

終戦直後から、お父さんも再び映画を楽しめるようになった。まだ生々しい焼け跡が残る町に出ると、大盛況の映画館へ足繁く通ったそうだ。

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スクリーンの中に広がる、美しい恋人たちのラブストーリー、遠い国の冒険。それがほんの少し前まで敵対していた国のものであっても、映画や俳優を憎む気持ちなど、お父さんにはなかったことが窺える。

「毎週日曜日になるとね。おもちゃを押し入れの中にしまったら、映画を見に連れて行ってもらえたの」

部屋の片付けを大急ぎですませた姉妹たちを引き連れ、お父さんとお母さんはいそいそと銀座の映画館へ繰り出した。

お母さんと19歳のお姉さんが観るのは、決まってラブストーリーの映画。一方、お父さんに伴われた真ん中のお姉さんとぼんこさんはというと。

「ミッキーとミニーの映画! 私、大好きだったのよ」

突然、「そうだ!」と大きな声を出して、彼女は椅子から立ち上がった。ちょっと待ってねと告げると、その姿がパソコン画面から消える。

しばらくして戻って来た彼女は、一冊の絵本を手にしていた。色褪せた表紙には、横書きで「ミッキイ大將」という題名が、右側から書かれている。それを開いてパソコン画面に近づけてもらうと、そこにはミッキーとミニーの冒険物語が描かれていた。

絵本「ミッキイ大將」
絵本「ミッキイ大將」