解剖学者の養老孟司先生は2020年に心筋梗塞、2024年には小細胞肺がんを罹いました。抗がん剤と放射線治療により一度は回復したものの、2025年3月には再発がんが見つかり、現在も治療を続けています。今回はそんな養老先生と、その教え子で東大病院放射線科医師の中川恵一先生による共著『病気と折り合う芸がいる』から一部を抜粋し、養老先生へのインタビューをお届けします。
極楽には花はあるけど虫がいない
『病気と折り合う芸がいる』の取材で、死の恐怖をどう克服したらよいのか、という質問がありました。それに対して、「死がどういうものか想像することは、おもしろくないですか?」と答えました。
虫仲間の池田清彦君(生物学者)と話したときのジョークですが、極楽に行って、きれいな花はいっぱい咲いているけど、よく見たら虫が一匹もいない。それは僕らにとっては地獄だなと。
蜘蛛はいるかもしれません。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は、蜘蛛の糸を使ってかん陀多(かんだた。「かん」は、牛に建)を地獄から引き上げる話でしたから。でも昆虫はいないような気がします。
『浄土三部経』(阿弥陀経)には、極楽は「無有衆苦」(苦しみが一切ない)と書かれていて、無有衆苦は暑さや寒さがないとも解釈されています。それは酷暑のインドの人が想像したからではないでしょうか。今は日本が酷暑の国ですから、暑さ寒さのない極楽というのは魅力的かもしれませんね。
(写真:『病気と折り合う芸がいる』より)