相当なストレスがあったんじゃないですか

家庭を壊したくない、もう一度やり直したいと夫は訴えた。人間、誰しも過ちはある。それを許さないのは人としてよくないと恭子さんも考えた。夫と知り合ってもう30年近い。その歴史は重かった。

「毎日のように話し合って、週末には一緒に出かけて……。ぎこちなくても一生懸命、会話をしなくちゃと心がけました。2人とも必死だったんです。私は積極的にセックスも仕掛けました。本当は生理的な嫌悪感があったけど、もう一度『いい夫婦』になるためには、そのハードルを越えなければいけないと思って」

この一件で、恭子さんは夫の前で泣きはしたが、夫を思いきり責めてはいない。先に謝られてしまったため、怒りをぶつけるタイミングを逸してしまったのだろう。

「ウソも毎日続けたらいつかは本当になる。そう信じていました。2人で早起きして私は夫と子どものお弁当を作り、夫は朝食を作る。それぞれ仕事に出かけ、何時に帰れるか連絡を取り合う。帰る時間が合えば外食しようと誘ったり」

1年ほど経ったある日、恭子さんは全身に倦怠感を覚えて起き上がれなくなった。夫は早く帰宅して看病してくれたが、それさえも鬱陶しかったという。

「翌日這うようにして病院に行ったら、即入院でした。1週間も検査漬けになったけど原因がわからない。ただ、免疫力が異常に落ちているし、内臓の働きもよくないと。『相当なストレスがあったんじゃないですか』と医者に言われた時、私、ブワーッと涙が出てきてしまって。もう何もかもイヤだ、そう思いました」

見舞いにきた子どもたちに本音をぶちまけた。娘は「お母さん、無理してるって思ってたよ」と笑う。その顔を見てまた号泣したという。「とうとう夫に本音を言いました。私はもう無理だと。愛そう愛そうとしたけど、愛せなかったよって。夫は『わかった』と言い、すぐに家の近くのワンルームマンションに引っ越していきました」

1年で7キロも痩せてしまった恭子さんに、夫としてかける言葉がなかったのだろう。離婚届を書いた時、恭子さんは急に体が軽くなった。自分を縛りつけていた「いい夫婦でいなければいけない」というプレッシャーがなくなったからだ、と自分で分析する。

「私、努力すれば必ずいいことがあると思っていたんですよね。逆に言えば、自分の思い通りにならないのは、努力が足りないからだと信じていた。でも、どんなに頑張ってもうまくいかないことがあると、この歳になって初めてわかったんです。だから離婚当初は、夫に裏切られたことより、自分の価値観が間違っていたというショックのほうが大きかったのかもしれない」

ところが離婚後の恭子さんは、元夫や子どもたち、さらには職場の仲間からも「変わった」と評判なのだという。もちろん、いい方へだ。「それまで自分の価値観に縛られすぎていたんでしょうね。穏やかになったとか、話しやすくなったとかよく言われます。私自身も人に弱みを見せるのが怖くなくなった」。素の自分はどういう人間なのか、彼女は改めて考えているという。


ルポ・妻は「浮気夫」を本当に許せるのか?
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