いつも笑顔でいなさいね
寂しくて辛くて、本所の家の跡に何度も何度も行った。懐かしい町は見渡す限り焼き払われていた。入口の石段だけが、家がそこにあったしるしだ。灰を掘り返すと、父の仕事道具や、母の湯のみ茶碗のかけら、弟の昼寝布団の切れ端が見つかった。
「父が疎開先にくれた手紙に、『寂しくなったら東京の空に向かって、父ちゃん父ちゃん父ちゃんと、3回呼んでごらんなさい』というのがありました。夜空に向かって、父ちゃーん、母ちゃーん、みんなー、と叫びました」
東京を発って沼津へ疎開する日の朝、母は涙をこぼしながら、
「かよ子は元気で明るくて、ひとに好かれる子だから、大丈夫よね」
と、何度も繰り返した。
「いつも笑顔でいなさいね」
※本稿は、『わが人生に悔いなし』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
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