太郎 「あるもの」で……(みつのりさんを指さして)。確かにノートを見ると、お母さんは光子ちゃんの服を自分で縫ったり、毛糸で編んだりしてるもんね。
みつのり 光子のズボンのお尻に穴が開いたら、そこを毛糸で繕いながら、動物のしっぽみたいにしてやるとか、工夫が上手な人ですよ。とにかく、当時僕のまわりにいた女の人たちと、まとっている空気感が違っていて。彼女も詩を書いていたから、そこも気が合ったのかもしれないね。
太郎 なぜかお母さんも結婚をOKしてくれて、翌年にお姉ちゃんが生まれた。
みつのり そう。当時の僕は仕事もなくて、自分が本当にやりたいこともわからず、人生どん底だった。だからお母さんが働いてくれていたんだけど、そんななかでふいに子どもができちゃったわけです。
太郎 「光子」っていう名前に決めた出来事があったんだよね。
みつのり いよいよ今日生まれそうって日に外出先の東京駅から家に電話を入れたら、手伝いに来ていた母から「元気な女の子が生まれたよ」と聞かされたの。中央線に乗って帰ったんだけど、その車内が窓から射し込む日の光でものすごく明るくて、その光に乗客の女性たちが包まれていてさ。それで「名前は光子にしよう」と決めたんだ。
太郎 お父さんの気持ちも上向いていたんだね。
みつのり とにかくそれまでが暗かったからねえ。人間は結局、生まれて死んでいくわけだけど、そのなかでも、子どもを授かる時の感情というのは、やっぱり僕にも特別なものだったんだよ。

