私のなかで母は

店員が声を大にすべき箇所は、「まーすーか〜」ではなく、「ミルクと砂糖」のところやろ、と思ったが、見ると相手は20歳前後、じじいの置かれた社会的弱者の立場なんて解るはずはない。いや、解ってもらうほうが惨めな気分。

店中の視線が私にそそがれているかもと恥ずかしかった。

私が話しかけると老いた母が何度も聴きかえしていたことを此頃よく想い出す。昨夜は夢に母が登場した。夢の中で母は私に聴きかえすことはなかった。なぜだろう。

そういえばこれまでどの夢でも母は聴きかえしたことがない。私のなかで母はいつも少年の私といる若き母なのかもしれない。

※本稿は、『大丈夫さ 私の履歴書』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

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