告知してくれてありがとう

和恵さんはまだ39歳と若く、急性虫垂炎という診断で僕が緊急手術を担当したのですが、開腹したら回盲部がんが原因となった虫垂炎であることが判明。僕は手術を中断して手術室の外で待機する夫の晃一さんに説明し、腰椎麻酔を全身麻酔に切り替えてがんの切除術を行いました。

肝臓転移を起こしたがんはかなり進行した状態でした。虫垂炎のはずが全身麻酔の手術をされ、おなかの縫合部は虫垂炎ならあり得ない大きな傷口。聡明な和恵さんがこの手術を不審に思わないはずがありません。晃一さんに、「和恵をだますのはかわいそうだ、本当のことを言うしかない」と言われました。僕もその通りだと思いました。

『死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(著:萬田緑平/河出書房新社)

しかし、当時の病院は患者さんに余命はもちろん、病名の告知もしないのが一般的でした。当然ながら、外科部長の許可は出ません。僕は部長の反対を押し切って、和恵さんに回盲部がんであること、余命は半年もありえることを告知しました。

「やっぱりただの虫垂炎じゃなかったんだ」とつぶやいて、和恵さんはひとしきり泣いてから、言葉が見つからない僕に、「告知してくれてありがとう」と言ってくれました。