最終章のシナリオを書くのは

そして迎えた結婚式当日。朝、晃一さんから電話がかかってきました。和恵さんは肝不全による意識障害が出現してしまい、目の前の楽譜がどこにあるのかさえわからなくなってしまったそうです。

それでも和恵さんは晃一さんと一緒に式場に来てくれました。別室で横たわる和恵さんは黄疸を超えて茶色になり、ずいぶんやせていましたが、いつものように明るく、

「おめでとうございます。ごめんなさい、ピアノを弾けなくて」

そう言って僕と妻に花束を渡してくれて、この日が和恵さんとのお別れになりました。

「自分の家で、自分のピアノの前で、ショパンを聴きながら家族に囲まれて眠るように逝きたい」と、和恵さんが生前に語っていたとおりの最期だったそうです。

僕の告知を受けとめてくれた和恵さんが僕に教えてくれたことは、今もぶれることのない在宅緩和ケア医の僕の信念です。

人生の最終章のシナリオを書くのは患者さんであること。

涙を乗り越えた患者さんは幸せな死を受け入れる強さを持てること。

余命は医師ではなく、患者さんが決めること。

※本稿は、『死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

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死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(著:萬田緑平/河出書房新社)

自身の最期をどう迎えるのか、それをどう選択するのか――。

2000人以上を看取った在宅緩和ケア医であり、ベストセラー著者。

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