歩くための大事な作戦
筋トレの話も常にする話のひとつです。
「重量挙げを軽いダンベルで100回、すごく重いダンベルで3回。筋力がつくのはどっちでしょう?」
と聞くと、「100回!」と答える患者さんのほうが多いのですが、答えは3回のほう。軽いダンベル100回でつくのは持久力。患者さんが歩くために、今必要なのは持久力よりも筋力のパワーです。だから自宅で歩いたり、座ったりするトレーニングをするときは長くやる必要はありません。ちょっときついことを少し、全力でやるほうが効果が出ます。
食事の摂り方も歩くための大事な作戦です。食事の量は必ず減ってきます。もりもり食べながら亡くなっていく人はいません。食べられないか、食べたくないかのどっちかです。だから「がんばって食べろ」と言われるのは拷問でしかありません。
筋肉をつけて歩くために重要なのはタンパク質ですが、食べる量が減ってきている患者さんが、食事で十分な栄養を摂るのは不可能です。だから、僕の作戦は食事の楽しみと栄養は別物と考えて、その割合を患者さん自身で決める。
食事が大事な楽しみの時間なら、食べたいものを食べられる量で楽しむ。がんばりたいなら食事ではなく、プロテインが入っている栄養食にしたり粉末プロテインを飲む。おいしくなくても少しでも栄養を摂って筋肉をつけたい患者さんには効果的です。
萬田道場の禁止事項はひとつだけ。家族の「がんばれ」は禁句です。患者さんはものすごくがんばっているのに、さらに「がんばれ」と言われるとつらいだけです。特に、「先生がほめてたからがんばって」とか、「先生が教えたようにがんばろう」とか、僕の名前を出してがんばらせるのは絶対禁止ですと約束します。まあ、これは80パーセント破られていますが(笑)。
※本稿は、『死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
『死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(著:萬田緑平/河出書房新社)
自身の最期をどう迎えるのか、それをどう選択するのか――。
2000人以上を看取った在宅緩和ケア医であり、ベストセラー著者。
その原点とも言える「本当に幸せな最期」とは何かを伝える1冊。




