(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
6月は、LGBTQ+の権利を啓発する活動・イベントが世界各地で実施される「プライド月間」です。認定NPO法人ReBitが行った「LGBTQ子ども・若者調査2025」によると、中高生の約9割が「学校で困難やハラスメントを経験した」と回答したそう。そのような中、出生時の性に違和感を抱く「性別違和」の状態にある子を持つ小児科医の松永正訓さんは「現在も光(仮名)は多くの生きづらさを抱えている。でもその中で自分にしかできないことを見つけ、生きるための基盤を作ろうとしている」と語ります。そこで今回は松永さんの著書『性別違和に生まれて-父と子で綴った23年』より一部を抜粋してお届けします。

修学旅行に行きたくない

中学3年生になり、クラス替えになった。新しい級友に馴染み始めてすぐに修学旅行の話題が持ち上がった。今度は九州へ3泊4日の日程である。この頃の私たちの子どもである光は、学校が緊張する場所に変わってきていた。落ち着けるのは美術部の部室と保健室だけになっており、教室に入ると緊張を強いられていた。修学旅行もはっきりと行きたくないと言うようになった。

私は光の気持ちを確かめた。

「どうする、修学旅行。行きたくない?」

「男子部屋で寝るのが、どうしてもイヤで……」

「父さんは、できれば修学旅行に行ってほしいな。いい思い出になるから。教職員の大人たちと一緒に寝るのはどう?」

「それもムリ。ちょっと考えられない」

「じゃあ、個室を用意してもらう? 一人で寝るのはどうかな?」

「怖いよ。一人は怖い」

「……」

私が話の接ぎ穂を失うと、光は別のことを持ち出した。

「今、学校で月曜日と木曜日に修学旅行のための学習の時間があるんだよ。ボク、それがイヤなんだ。修学旅行に行かないのに、みんなと勉強するってなんだか友だちを騙しているような気持ちになる。月曜日と木曜日、学校に行きたくないよ」

「分かった。修学旅行はやめよう。その学習時間は図書館で自習とかできるように、先生に頼んでみるよ」

「そうして」

「光……、別のクラスの子で性別違和を公表した子がいるんでしょ? その子はのびのび学校生活を過ごしていると母さんから聞いたよ。光はムリしているんじゃないかな。みんなにカミングアウトした方が楽なんじゃないかな?」

「怖いよ。クラス替えしたばかりだし、どう思われるか分からない。今のまま静かにしている方がいいよ」

私はうなずかざるを得なかった。担任の先生に手紙を書き、光の修学旅行参加は断念した。