ママ、ごめん。ここ切ってくれる?

「ちょっと待って、なんで今日なの?」

その日はTBSのテレビ番組「サンデージャポン」に生出演して、がん闘病について語る予定だった。

『フルコース がんと私と家族の日々』(著:梅宮アンナ/文藝春秋)

もう撮影まで時間がない。茫然自失とは、まさにこのこと。

たしかに、前兆はあった。数日前から、何もしていないのに、髪の毛が引っ張られるような痛みを感じていた。女性ならわかると思うけど、髪の毛を結んだまま寝ちゃって、朝起きたときのあの痛みに似ている。

私は“準備魔”で、旅行に行くときも「これと、これと、これ」といった感じで、大量の荷物を用意するタイプ。今回も先生から「副作用で髪の毛が抜けます」と言われてからは、早めに準備して、いくつか安いウィッグを買い揃えていた。

でも、まだ被るのに慣れていない。おまけに、スタジオでどんな洋服を着れば似合うのかも予測できない。

どうしよう……。刻一刻と時間は迫ってくる。たぶん、1分もなかったと思うけど、1時間以上は浴室に立ち尽くしていたような感覚だ。

涙が込み上げてきた。でも、「あとでいくらでも泣ける」と思い、その場はグッとこらえる。

「ママ、ごめん。ここ切ってくれる?」

浴室を出て、リビングにいるママにハサミを渡した。

本当はママに切らせたくはなかった。でも、どうやら毛が抜けたのは頭頂部で自分では見ることができないし、ヘタにハサミで切れば、怪我すらしかねない。

ママは泣いていた。

ショック、怖さ、そして、「娘がこんなになっちゃって、かわいそう……」という同情の気持ちが入り混じっていたんだと思う。ハサミを持つことすら嫌そうだった。

もし私が同じ理由で百々果の髪の毛を切ることになったとしたら、やっぱりめちゃくちゃ泣いたはずだ。