がん患者を前にすると
ママには「とりあえず切って」と頼んで絡まった毛だけ切ってもらった。
完成した髪型はボブより短めのショート。頭頂部だけが薄くなっている。
誰かに似てるような……。
あっ、これって、フランシスコ・ザビエル!
ママは「いや~、ここだけなくなっちゃったわね」なんて笑っている。その姿を見て、私も少しだけ元気を取り戻した。
なんとかスタジオ入りの時間には間に合った。
でも、ウィッグの感覚がつかめない。その上からニット帽も被っていたけど、相性が悪かったのか、途中でニット帽がツルンと落ちてしまったらしい。モニターをチェックしていたスタッフさんが「落ちてますよ」と教えてくれて、私もはじめて気がついた。
その瞬間、ハッとした。
共演者には見えていたはずなのに、誰もツッコまなかったんだ。私としては気楽にツッコんでほしかった。
「がん患者を前にすると、なにも言えなくなるのかな」
周囲の接し方がガラリと変わるのを痛感した。
それから4日くらいかけて、どんどん髪は抜けていった。頭頂部からだんだんと範囲は広がり、1週間もすると、9割近くの髪がなくなってしまった。
いや、体毛すらも抜け落ちて、残ったのはまつ毛と眉毛くらい。
浴室の排水口にはものすごい量の毛が溜まるので、専用のクリーナーが必要になった。