もう梅宮アンナじゃない
最初、副作用で髪の毛が抜けると聞いたときから、私は信じたくなかった。
「先生、私は抜けない可能性はないですか?」
「いや、ないです」
こんなやり取りを何度も繰り返した。私がいくら食い下がっても、先生は「絶対に抜ける」と。この答えは変わらなかった。
自分の髪の毛がなくなるなんて、どうしても想像できなかった。女性らしさは髪の毛で感じられると思っていたし、ずっと髪にこだわって生きてきた。ヘアサロンにも3週間に1度は必ず通って、年間のスケジュールも決まっていたくらい。
いざ、髪が抜けると、予想通り、落胆ぶりはすごかった。
鏡の前に立つたびに「もう私は梅宮アンナじゃない」とすら思った。やっぱり信じられない。「アピアランス」というのか、30年以上、美容やメイクの仕事をやってきた私にとっては、自分の容姿が変わってしまったことへの恐怖や絶望は、人一倍ひどかったかもしれない。
人工毛のウィッグをつけても、髪の毛に色がないし、表情も暗くなる。これじゃ「なんか病人みたいだね」って言われても仕方がない。一番聞きたくない言葉だ。
もう抗がん剤もやめたくなってきた。
変なことを思い出したけど、そういえば、昔、ハゲてる男性と付き合ったことがあった。頭頂部に薄い髪がバーコードみたいにかかっている、あの髪型だ。
彼はいつも、残されたわずかな髪の毛をすごく大事にしていた。でも、何かの拍子にケンカになり、私が彼の頭の毛を「クチャクチャ!」と掻きむしった。すると彼は「やめろ! やめろ!」って大騒ぎ。
なに熱くなってんの? そのときはあきれながら見ていたけど、今なら彼の気持ちがわかる。申し訳ないことしたな。