「ありがとう」と言葉で伝えて
母自身、要介護になってからは、症状の悪化を感じて気落ちすることもあったようです。19年間で母が一番つらそうに見えたのは、自分で立ち上がるのが難しくなった頃でした。
何かしようとすると、常に介助が必要になる。ベッドから車椅子に移るとき、トイレで座るとき、立ち上がるとき……。そのたびに「ごめんね、ごめんね」と私に謝るようになったのです。
これは私もせつなかった。とにかく「私は好きでやってるんだから謝らなくていいからね」と言い続けました。
人間、できないことが増えると、生きている意味がないんじゃないかと、ふと思ってしまうのかもしれないですね。私は母に「生きていていいんだ」「頼っていいんだ」「安心していいんだ」と思ってほしかった。
だって母は今、87歳。この世代が日本を引っ張ってきたんです。その人たちが人生終盤を「迷惑かけてごめんね」なんて思いながら過ごしてほしくない。介護福祉士の実習で多くの利用者さんを見ながら、そう感じました。
今、母は基本的に寝たきりです。自分では起き上がれない。それでもトイレ介助などで私が抱きかかえるとき、自分の踵に体重を乗せてしっかり立ってくれることがあるんです。そういうときは「今、しっかり立ってるよ。私、すごくラクだったよ。ありがとう!」と声をかけます。すると母は「ふふふ」って口角が上がる。もう言葉を交わすのは難しいけれど、表情で気持ちはわかるんです。