耐える母の代わりに闘ったチロ
ある日、傷が治った父は、日曜日にも関わらずできた商品を車に載せて会社に行った。それを知らずに、仕事仲間の社長が自宅にやって来た。母は父が野良猫に噛まれて大変だったことを話すと、社長は母が驚くようなことを話しだしたのである。それは、隣の部屋にいた私にも聞こえた。
「それは野良猫じゃなくて、B子さんが最近飼った猫ですよ。昨日、僕がB子さんのところに商品を届けに行き、猫と遊ぼうとしたら、以前その猫がご主人を噛んだみたいで、B子さんから『気をつけてね』と言われました。
それにB子さんの家にご主人の車が置いてあると、その猫がよくタイヤにオシッコをかけるんです。僕も商品をよく届けに行くから、タイヤにオシッコをかけられたら困ると思っていました」
母は、仕事の関係で父と付き合いのあるB子さんが、父の愛人ではないかと疑っていた。しかし、母はそれを父に言わずに、黙っていた。本妻が騒ぎたてると、夫が愛人のほうへ行ってしまうと思い込んでいたのだ。父の傷を診た医師が口にした「女性に噛まれるよりはいいかな」は、冗談にはならなかった。
チロの父への威嚇も、B子さんの猫のにおいがしたのだろう。その日以降、母はチロに特別な対応をするようになった。
