ライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります。
激しいチロの威嚇
私が中学生の時に、人通りの少ない住宅街の道に箱が置いてあり、「もらってください」と書かれた紙と共に、黒い縞柄の子猫が1匹「ニャー、ニャー」と鳴いていた。家に連れて帰ると、すぐに家の中を駆け回って遊び、母が「チロ」という名前をつけた。
チロが家に来て5年がたったある日のことである。私が高校に行くために玄関を出ると、チロが父の車のタイヤを威嚇していた。チロは歯をむき出しにして「ウギャア!ウギャア!」と鳴き、背中を丸め、全身の毛を逆立て、前足も後ろ足も突っ張り、つま先を立てるようにして、右へ左へと跳んでいた。
その鳴き声に、母と私より4歳年上の兄が外に出てきた。
チロは自分よりも体の小さい猫を家に連れて来て、自分のエサを食べさせるという優しいところがあった。家族はもちろん、他人を爪で引っかいたり、噛んだりすることもなかった。
喧嘩をするのは、自分よりも大きい猫や同じ位の大きさの猫だけ。しかし、このタイヤへの威嚇は、猫たちとの喧嘩よりも荒々しかった。
母は「タイヤに噛みついたら歯が折れるよ」とチロを注意した。チロはその声が理解できたのか急に脱力。母がチロの前足の脇に手を入れて持ち上げると、全身をだらりと下にのばし、とまどった表情になった。
その日から何回も、チロが父の車のタイヤを威嚇する光景を見た。さらにその頃からチロは、父も威嚇するようになった。
