魚の骨を丁寧に取り
当時もペットフードはあったが、チロは鰹節をかけたご飯や焼いた魚を好んで食べていた。チロは魚の小骨が口の中に刺さったりしてうまく食べられなかったが、あの日以降、母は箸で魚の骨から身を丁寧に取り、チロが食べやすくするようになった。骨を取ってもらうのを、チロは坐ってじっと見ていた。
それから4年後、チロの容体が悪くなった。母は弱ったチロを腕に抱き続け、チロは母を見つめ続けた。「チロの瞳の光がスッと消えた時が、息絶えた時だった」と、母は話していた。
チロは、墨田区両国の『無縁寺 回向院』に葬られた。チロより前に亡くなった犬のマツもここにいる。回向院では、勧進相撲が明和5年(1768年)から行われ、回向院の傍に旧国技館が明治42年(1909年)に完成するまで相撲が開催された。昭和11年(1936年)に歴代相撲年寄の慰霊のために建立された大きな『力塚』があることでも有名だ。
大相撲ファンであり、東京大空襲で自宅が全焼するまで両国に近い江東区で暮らしていた母は、チロもマツも回向院で供養してもらうことを強く望んでいた。
6年前に母が亡くなってから、私は毎年、回向院に行く。先日も動物の供養塔に手を合わせて、母の味方であったチロに心の中でお礼を言ってきた。
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