「ハイヒールの謎ルール、七年ぐらい前だよね、撤廃されたの」
みのりはその頃すでに総務人事に配属されていたはずだ。問いかけに、みのりは記憶をたぐるように目線を浮かせ、うなずいた。
「そう、職場でパンプスやハイヒールを女性に強制しないでほしいっていう社会運動が注目されていた時期だね。あの頃、試しに総務人事から全女性従業員向けにアンケートをとったら、平底の革靴もオッケーにしてほしいって意見が圧倒的に多かったんだ。だからそのアンケート用紙をそのまま社長室に持っていったの。社長は『女の人はきれいな格好したいものじゃないの?』ってずーっととんちんかんなこと言ってたけど、業務中の転倒事故の話や、そもそも一日中ヒールを履くのは辛いんだって体験談をたくさん読ませて、なんとか納得してもらった。それで、履きたい人はこれまで通りヒールありでいいし、ぺたんこ靴が好きな人は普通の革靴でオッケーになった」
「あの社会運動、素晴らしかったよね。それまでは自分が窮屈な靴を履かされているって気づかなかったもの。それで、社会運動の力を借りて、みのりは売り場で泣かされた二十年前の雪辱を果たしたわけだ」
圭子に話を振られ、みのりは「ん?」と首を傾げた。急に指を折ってなにかを数え始める。
「いや、私は高校卒業してすぐにアルバイト始めたから……え、待って、計算できない。二十年じゃないや、もうすぐ四半世紀? こわっ。まあ、なんだかんだ、四半世紀でうちの会社は、だいぶ働きやすくなったよね」
「昔がひどすぎたんだって」
同期二人のやりとりを聞きながら、綾香は唯のことを考えていた。
そうだ、二人の言うとおり、だいぶ働きやすくなった。ハイヒール強制の謎ルールは撤廃され、女性社員のパンツスーツも一般的になり、夏には男女問わずクールビズが導入されている。今こうして話している三人はそれぞれの部署の管理職だ。これも、四半世紀前は考えられなかったことだ。世の中は変わっていく。
だけど。
「お二人につかぬことをうかがいたいのですが」
「はい」
「はいよ」
「腕の毛って処理してる?」
みのりと圭子は虚をつかれた様子で目を丸くした。
