救急の最前線であらゆる精神疾患に向き合う現役精神科医である駒木爽先生。駒木先生は「医療現場の問題は正論だけで片付けられないし、精神疾患に無力感を突き付けられることも多い」と語ります。そこで今回は駒木先生の著書『精神科医おどおど日記――閉鎖病棟24時、本日当直、あらゆる精神疾患寝ずに診ます』より一部を抜粋し、「精神科のきれいごとでは済まないリアル」をお届けします。
某月某日 熱心な家族:「あなたには精神科医の資格がない」
病院外で初めて会う人は、私が医者だと知るとたいてい「何科ですか?」と聞く。「精神科です」と答えると、「メンタルやられません?」とか「変な人、来ますか?」なんて質問されることもある。
幸い私は精神科医の割に人の気持ちに疎いし、感情移入せずに淡々と仕事をするタイプなので、患者の症状に引っ張られてメンタルがやられることは少ない。一方で「これは厄介だな」と感じる人にはたまに遭遇する。
その日、救急外来の担当だった私宛に看護師から連絡が入る。
「診察の予約は取っていない人なんですけど、受付で『どうしても今すぐ診てほしい。紹介状は持ってるから』ってすごい勢いで言うらしいんです」
予約なしに外来を訪れた場合は追い返すことも可能だ。ただ、緊急性がないとも限らないし、どんな状態なのかは実際に診てみないとわからない。
「では、私が診ますのでお通ししてください」
数分後、20代前半の女性と、その母親と名乗る50代らしき女性が無遠慮に診察室のドアを開けて入ってきた。母親の手には現在通っているメンタルクリニックの紹介状が握られている。私が名前の確認をしようと口を開く前に、母親が突然言った。
「この子をグループホームに入れてもらいたくて来ました」
突拍子もない発言に気圧されながら、「先に紹介状を見せてもらえますか」と切り出す。
患者は娘の上原久美さん。自閉スペクトラム症(ASD)があり、通院しながら薬物治療を受けている。高校卒業後は、専門学校に進学するも、対人関係でつまずいて中途退学し、現在は就労継続支援を利用して作業所に通所しながら母と2人で生活している。