紹介状を作成

「先生はまだ若くて経験が浅いんでしょうね。この子の病状を一番把握しているのは一緒に住んでいる私ですよ。この子も嫌がってないんだから入院させてください」

「ご本人も『お家が好き』と話されていますし、今の状況だと強制的な入院が必要な状況でもありま……」

(写真提供:Photo AC)

「じゃあ、S病院に紹介状を書いてください。必要なのに入院させてくれないんですよね?」

母親は今にも椅子が立ち上がりそうだ。

「もちろん必要なときには……」

「先生は精神科として何年働いているんですか? 勉強が足りないんじゃないですか?
こんなふうに困ってる人たちを助けようとしないなんて」

もうここまで来ると、話し合いというより一方的クレームだ。「自分の要望が通らない=無能な医者」という論理に入っていて、手に負えない。こうしているあいだにも救急外来にはいつ緊急の患者が来ないとも限らない。説得に余計な時間を費やすよりも、紹介状を書いたほうが早いと切り替えることにした。

「ご希望どおり、紹介状を準備しますので外の待合室でお待ちください」

そう言うや否や、母親は勢いよく立ち上がり、乱暴に診察室のドアを開けて出て行った。久美さんはこちらに申し訳なさそうに一礼してあとに続いた。

簡潔にS病院への紹介状を作成(5)する。近隣のS病院の精神科には顔見知りの医師がいる。人の好さそうな彼の顔を思い浮かべながら、文末に「主張の強い、たいへん熱心なお母さまです」と添える。

(5) 正式名称は「診療情報提供書」。氏名・生年月日などの基本情報のほか、現在の症状、既往歴、検査結果、処方薬、紹介の目的(精密検査、転院、手術依頼など)を詳述。パソコン入力で作成に10〜20分要する。