救急病院まで来て痴話喧嘩かよ

0:40、寝入りばなを破る電子音で目が覚める。

「入院希望の電話がかかってます」外来看護師の低い声。

(写真提供:Photo AC)

救急隊からの受診要請で、対象は26歳の男性。1カ月前からうつ病で近くの心療内科に通院中。夜間眠れず落ち着かない様子で、心配した母親が部屋を覗くと、タオルで首を吊ろうとしている本人を発見。驚いた母親は「このまま家においてはいけない」と救急車を呼んだ。深夜0時をすぎての入院対応は厄介だ。精神科の患者で初診かつ緊急入院となると、対応に相当の時間を要する。

0:55、救急車で真っ青な顔をした男性が運び込まれてくる。付き添いの母親も興奮状態にある。男性に外傷はないが、自殺企図のある患者をこのまま家に帰すわけにはいかない。母親の同意を得て、「医療保護入院(7)」とした。

この入院にあたっては、患者の病歴を聴取し、病状を把握して、入院に至るストーリーを聞き取らなくてはならない。必要な情報を全部聞き出して入院の指示を出すまでに最低でも1時間。入院対応が終わると時計は2時15分を指している。

2:30、当直室に帰り、電気を消すと「受診希望です」と看護師からの電話。「妻が死にたいって言って飛び降りようとするんです」という患者の夫からの受診希望で再び診察室へ。現れたのは深夜にもかかわらずバッチリメイクした20代前半の女性。

「別にうつっぽくもなんともないしぃ~」「高校生のころからずっと薄っすら死にたいって思っててぇ~」とファミレスでのガールズトーク風の口調で話し続ける。落ち着いているように見えたが、診察中、同伴してきた夫が「ふつうこんなことしないだろ」の一言をきっかけに「“ふつう”って何? あんたが私置いて出張するからでしょ!」と突然激昂。明らかに情動は不安定だ。50分ほど話を聞くうちにだんだん波が穏やかになっていき、最後は夫が「落ち着いたみたいなんで連れて帰ります」と言い残し、去っていった。「救急病院まで来て痴話喧嘩かよ」とも思うが、こうした対応には慣れっこで怒りは湧いてこない。

(7) 精神科病院への入院形態は大きく分けて3つ。(1)任意入院。患者本人の同意で入院するもっとも基本的な入院形態。本人が望めば退院できる。精神科以外の病院では原則的にすべてこの入院形態。(2)医療保護入院。本人の同意はないが、家族等の同意と医師の判断で入院が必要とされた場合の入院形態。症状が重く、任意での入院が困難なときに用いられる。(3)措置入院。自傷や他害の恐れがあると判断されたとき、都道府県知事の権限で行なう強制入院。2人以上の精神保健指定医の診察が必要で、精神科でもっとも重症な患者への入院対応。(2)(3)は、患者が「入院したくありません」と言っても、医師の判断で入院させられる。不当な入院が行なわれないように法律で条件が示されているため、医師は「誰が見ても強制的な入院が必要である」と判断できる情報を集めて、行政(県)に書類を提出しなくてはならない。