「不機嫌」の隙を埋めるもの
さて、脳内で処理をしている間の数秒間、沈黙が生まれると「不機嫌」に見えることがあります。その隙を埋めるのが、紳士の「作法」です。
紳士は「含み笑い」と「瞬き」を使います。相手が話し終えたら、2秒ほどゆっくり瞬きをし、口角をわずかに上げて「なるほど」と頷きます。
そして、欠かせないのが「紅茶(特に紅茶には限らないのですが、場をつなぐ飲み物)」です。紅茶は単なる飲み物ではなく、物理的な「間」をつくり、これを心理的な「距離」に変換するための、大変使い勝手のよいツールです。カップを持つ指先の静止は、貴方の余裕を視覚的に証明します。
そして最後は、「感嘆の吐息」で締めくくります。怒りの溜息ではなく、「いやはや、驚きました」というニュアンスの、軽い感嘆の息を吐くのです。
理想のあり方は心に「静かなる防波堤」を築くことです。
ロンドン紳士が目指すのは、相手を論破することでも、自分の正しさを証明することでもありません。「私の内面の静寂は、どのような外部の雑音によっても乱されることはない」という、究極の自己統治(セルフ・ガバナンス)を完成させることです。
不機嫌を見せないのは、相手への配慮ではなく、「自分の感情の鍵を、他人に渡さない」という、最も高慢で最も気高い自衛手段なのです。
もしこれまで、マウントされてしまって嫌な思いをしてきたというなら、それは別に、貴方の能力が低かったわけでも、性格が悪かったわけでもありません。ただ、この野蛮な世界を渡り歩く「やり方」を知らなかっただけなのです。
さあ、ティーカップを置きましょう。血を流さずして、相手に己の身の程を思い出させるための、静かな戦いの始まりです。
※本稿は、『ロンドン紳士と脳科学に学ぶ 品格のあるマウントのとり方』(日経BP)の一部を再編集したものです。
『ロンドン紳士と脳科学に学ぶ 品格のあるマウントのとり方』(著:中野信子/日経BP)
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