医療ミスとは

右鼠径ヘルニアの子どもに対して、左側の鼠径部を切開してしまったら、それは左右の取り違いなので、ミスである。ヘルニアの袋(=腹膜のこと)だと思って、奥から膀胱を引っ張り出して切ってしまったらミスである。同様に、大腿動脈を切って大出血させてしまったらミスである。

患者に対して「害」を与えるし、術前の約束を破ったことになる。では、手術後になって、反対側の鼠径部から新たにヘルニアが出現したら? あるいは手術したのに再発したら? これはミスではない。一定の確率で起きる。したがって手術前にあらかじめ説明をしている。

『大学病院の正体-手術、人事、教育、研究のすべて』(著:松永正訓/中央公論新社)

ぼく自身も鼠径ヘルニアの再発を経験したことがある。再手術をしてみたら、ぼくが最初に処置をした場所は完璧で、すぐその隣から新たに腹膜と腸がヘルニアを起こしていた。家族にその旨を説明し、納得していただいた。

術前に説明していたか、そうでなかったかが、ミスと合併症の一つの区別になると言っていいだろう。しかし、比較的レアであり、また、些細なことは説明しきれないこともある。医療的にはまったく問題ないことであっても、「そんなの聞いてなかった!」とクレームをつけてくる人も見たことがあるが、そういう人は基本的に医療に対する不信感があるのだと思う。