なぜミスが起きるのか

ぼく自身は大学病院で長く外科医として働いて医療ミスを起こしたことはない。ただし、うちの科の中で医療ミスは、はっきり言って何回かあった。なぜ、ミスが起きるのか?

最大の原因は慢心だろう。みなさんは若手の外科医が執刀することに不安感を持つようだが、若手医師の医療ミスはまずない。なぜなら、若手は慢心しない。一心に集中して手術をやり切るからだ。そして同時に、前立ち(執刀医の正面に立って指導する)として、ベテラン外科医が若手の手術を厳しく見張り、指導するからである。

(写真提供:Photo AC)

ところが、外科医を10年、15年とやっていくと、シンプルな手術を担当するときに心が緩むことがある。前立ちの医者も自分の後輩なので、先輩の手技を厳しくチェックするということがない。ぼくは、いい医者の条件とは倦まないこと、弛まないことだと思っているが、これがなかなか難しい。ぼくは後輩の医療ミスはあまり見た経験はないが、先輩がミスするのを見たことがある。

では、ミスが起きたらどうするか? 一番やってはいけないことは、患者家族に隠すことである。ウソは絶対にばれる。ばれないウソはない。ウソがばれたときのダメージは底知れない。うちの教室での隠蔽はぼくの知る限り一度もない。すべて説明している。

説明して納得をいただけることもあれば、納得をいただけないケースもある。もちろん、再手術でリカバリーが利かないようなミスは許してもらえない。では、訴訟になるかというと、訴訟も経験がない。理由は分からないが、ミスのあとで誠心誠意、事情を説明し、可能な限りのリカバリーに努めているからかもしれない。