遠い未来は想像しない。2、3日先のことだけを考える
「デイサービスに、送迎ドライバーの仕事の面接を受けに行ったんです。でも夫が着ていった服を見て絶句。真っ赤なTシャツにショート丈のGパン姿よ。普通、面接にはせめて襟付きのシャツを着て行くでしょう? 『世の中をナメてる!』と、家族全員で非難しました。もちろん不採用ですよ」
その後、優里さんは改めて夫に問うた。「あなたはこれから、どうやって生きていきたいの」と。すると、意外な答えが返ってきた。
「『絵を描く』って言うんですよ。江戸川のほうに描きたい風景があると。それで高級画材店に行って、水彩絵の具とパレット、筆2本、筆を洗う水入れを買ってきました。……悪気はないんです。何かね、ちょっと変わった人なの(笑)」
優里さんにとっての唯一の希望は、孫の存在だ。
「うちに生まれてきてくれてありがとう、という気持ちでいっぱい。本当に可愛い。うちのワンちゃんが孫にやきもちを妬いて、朝から晩まで吠えてご近所から苦情が来た時期もありました。それも頭の痛い問題だったけど、今は落ち着いているから大丈夫」
お金の心配をしながら大家族にごはんを作り、孫と犬と夫に目をかけ……。この数ヵ月はさぞ神経を使う期間だったに違いない。けれど、優里さんは持ち前の明るさで前を見続けた。8月後半からは塾のバイトが再開。10月になれば自身の年金も入ってくる。
「少しは光が見えてきたかもしれません。あまり遠い未来を想像すると気が滅入るから、2、3日先のことだけを考えて、日頃の愚痴はお友達に聞いてもらって、孫や犬と遊ぶ。そうやって、どうにか切り抜けていきたいです」
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今回取材をした4人は、苦しい状況に置かれているにもかかわらず、時に笑いを織り交ぜながら心境を吐露してくれた。私自身、フリーランスという立場のため、今年の4月は仕事がゼロになり右往左往した。その後回復に向かいつつあるが、今後、いつどんな状況に陥るかはわからない。そのとき、4人のように気持ちを強くもてるだろうか。