「顔と全身に乳液を塗って」

ある日、体調が良かった母は、久しぶりにネイルを塗っていた。その直後、吐血し、ICUに運ばれる。危険な状態であると医師に説明された後、温かい雰囲気の看護師さんが私たちに話しかけてきた。「お母様はどんな方ですか? できる限りのケアをさせていただきますね」。

32年間聞き流していた小言から、母の姿を思いつくままに伝える。「潔癖です。だから常に清潔にしてあげてください。ネイルも好きです。それと気が強いので……」。口から溢れ出す、悪口混じりの母の特徴を、看護師さんは微笑みながら聞いてくれた。

ICUでは、母をケアする若い看護師の2人が、ネイルを見て「きれいね!」と感激しており、私はそんな母のことを誇らしく感じた。約50人分の輸血のおかげで、母は奇跡的に持ち直す。ICUを出た直後、たくさんの管につながれていても「顔と全身に乳液を塗ってほしい」とせがむ母。私は、肌のうぶ毛を剃るなど、最後まで気持ちよく過ごせるよう世話を続けた。

管が外れた後は、いつも通りの母に。看護師たちと「うちの娘はまだ独身」と話に花を咲かせたり、「あの研修医、顔はいいけど病人に対してニヤニヤしすぎ」と、私に報告したりするまで回復した。