この日は8月13日の盆の入りでした。祖先の霊がこの世に戻って来る日です。この世の家にいる人たちは、迎え火を焚いて、故人の好物などを供え、戻って来る霊を迎えます。子孫がいなくなり、戻って来られない霊にも、墓に供え物をして村全体で供養します。

高顕寺に泊まる最後の夜、近くで送り火があるというので、美子ちゃんと見に行きました。墓地に行くと送り火を焚いていて、十数名の村人がその火を囲んでいました。ジャージ姿だった高顕寺の住職が袈裟姿で現れました。送り火に照らされた住職は、神々しく見えます。住職の読経が始まり、それに合わせて村人たちもお経を唱え始めます。

こうして霊を送り、また来年の8月13日に霊を迎えるのです。霊となった故人は、孫が成長した姿を見て喜んだり、曽孫を見て微笑んだりしているのでしょうか。こうして毎年お盆に戻れると思うと、死んで行くこともそれほど寂しくないのではないかと思いました。

ぼくの父親、母親、義母の霊も、ぼくらがいるから、他の霊に混じってこの場に来ているかもしれません。そう思いながら、ぼくも村人に混じって手を合わせていました。

末井富子の墓。映画の脚本を置いて柄本佑さんが撮った写真

主演の柄本佑さんが墓参りに

それから17年後の2017年、ぼくが母親のことを書いた『素敵なダイナマイトスキャンダル』が映画化されることになり、主演の末井昭の役は、柄本佑さんに決まりました。クランクインはその年の3月だったのですが、その前に柄本さんが1人で、母親の墓参りに行ってくれていたことを後で知りました。

母親の墓の場所はわからないはずなのにと思ったのですが、撮影現場で会った時に聞いたら、ぼくが冨永昌敬監督に渡した適当な地図を頼りに、セリフを覚えるかたがた気軽な気持ちで行ったと話していました。岡山で一泊し、吉永駅からタクシーに乗り、墓の近くで降りたつもりが、4キロほど手前だったそうで、そこから歩いているうちに道に迷ってしまい、「遭難するんじゃないか」と思いながら、奇跡的に辿り着いたという話でした。その時の写真を見せてもらったのですが、墓を建てておいてつくづく良かったと思いました。石ころのままだったら、探せなかったはずです。

※次回配信は2月25日(木)の予定です

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