幼い頃から芸能界で活躍した美空ひばりさん(右)のかたわらには、常に母・加藤喜美枝さんの姿があった

もちろん、家族の支えは大きな力になります。私は日本コロムビア時代に、短期間ですが美空ひばりさんの担当をしたことがあるのです。ひばりさんの母・加藤喜美枝さんから、「お嬢(ひばり)の専属プロデューサーになってもらいます」と条件を提示されたものの、それは無理です、と辞退し、それでもたまに仕事をさせていただきました。

喜美枝さんは名マネージャーであり、偉大なプロデューサーでもありました。コンサート会場ではいつも真剣にステージを見ていた。ある時、血相を変えてパッと立ち上がり、「お嬢の顔の前に虫が飛んでいたから、追い払わないと」と言うのです。どんなことからも全力で守ってくれる親がいたからこそ、ひばりさんは国民的な大スターになることができたのでしょう。

 

試練を乗り越えたときにこそ、名曲が誕生する

これからの歌謡界はどうなっていくのでしょうか? とよく訊かれます。歌がデジタルのデータでしか残らないようになりつつある今、瞬間的に自分ひとりで楽しむことはできても、広がらずに終わっていってしまうのでは、と少し寂しくなる時がありますね。

それでも、希望は持っていますよ。米津玄師さんの「Lemon」を聴いて、まさに昭和歌謡の精神が宿っていると感じました。それから、コロナ禍後の歌謡界が楽しみです。昭和歌謡も終戦後に生まれた。人々が大きな試練を乗り越えたときにこそ、名曲が誕生する。大いに期待しています。

今後プロデュースしたい人としては、俳優の斎藤工さん。すでにアルバムを発表していますが、それを聴いてうまいなと。それからJUJUさん。アンニュイな声がたまらなくいいですね。いつか機会があればお仕事をしたいと思っています。

私には特別な趣味もなく、仕事一筋で生きてきました。でもまだまだやり残していることがある気がして……。きっと私は妄想家なのでしょうね。(笑)