直感的な選択が、人生をすくう

自殺するために向かう、光る線路はうつくしい。だけど、線路じゃなくて葉山先生と乗る電車のほうを泉は選ぶ。その一瞬の、ほとんど直感的な選択こそが、泉の人生をすくう。
泉の価値観だからこそ恋が生まれた、主人公の性格と関係性の変化がぴたりと噛み合ったシーンである。

『ナラタージュ』という恋愛小説は、繊細で美しい場面がたくさん重なって構成されているのだが、なかでもとても繊細な描写だと思う。

恋愛ってほんとに、一瞬の直感が展開を変えるよね。

誰かと出会うことがエピソードのはじまりだとすれば、誰かとの関係性の変化は、エピソードが動いてゆく、とても重要な場面だろう。

その場面をできるだけありきたりなもので終わらせずに。主人公が大切にしている価値観や出来事があったからこそ、変化がうまれた……という展開になると、名場面になりやすいのではないかと思う。

「私だからこそ選んだ選択肢」が、その関係性を変化させる、のだ。
 


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