諏訪中央病院に赴任し、長野県を日本一の長寿県へと導いた医師の鎌田實さん。多くの人の命を救ってきた名医も、仕事に邁進するあまり不調に悩んだ時期があるといいます。鎌田さんが行き着いた、一生元気で楽しく暮らすための<知恵>とは──(構成=島田ゆかり 撮影=本社写真部、邑口京一郎)

生き方を考えさせられた「中年危機」

ピンピンひらり。これが、私が目指す生き方です。生きている間はピンピンと元気に過ごし、そのときが来たらひらりとあの世に行く。私は長生きをしたいというよりも、生きている今を充実させたいと思っています。

今年(2021年)で73歳になりましたが、大好きなスキーはいくつになっても続けたいし、80歳になってもライブハウスに行きたい。90歳になっても旅行をしたいし、レストランで好きなものを食べたい。そのために、日々養生をしながら暮らしているわけです。

若い頃はとにかく忙しく、仕事三昧でした。30代で諏訪中央病院の院長に就任し、盆暮れ正月休みなく365日働く毎日。当時、病院は多額の赤字を抱えており、また地方病院にはよくあることですが医師も足りない状況でした。その赤字病院を必死で再生させ、全国から医師が来てくれる「マグネット・ホスピタル」へと生まれ変わらせたのです。さらに、地域包括ケアの仕組み作りにも奔走し、今では長野県は長寿で医療費の安い地域になっています。

しかし週末も休まずに働き続けた結果、私は48歳の時に「中年危機(ミッドライフ・クライシス)」になってしまいました。これは中年期の約8割の人が陥ると言われている心理的危機。

40代になると自分の頂点が見えてきて「自分はこの程度か」と思ったり、「このままではいけない」と焦り始めたりするものです。女性の場合、子育てが終わったときに見られる「空の巣症候群」もそのひとつでしょう。役割喪失にともなって、うつ症状や不安に襲われる。私はパニック障害を患い、頻脈、冷や汗、睡眠障害などに2年間悩まされました。