「自分はここで生まれ変わる」と感じた

さて、私が初めてモンマルトルを訪ねたのは2017年の6月末。写真の記録が残っているので間違いない。私はその半年前に画家デビューした。画廊の勧めで、ある先生についてバリ郊外に滞在していた。しかし、体調悪化から帰国を早め、6月末の飛行機を待ってパリ市内に移動。「万一困ったことが在ったら連絡を」と紹介されていた知人の連絡先を思い出し、連絡すると、「モンマルトルで食事しましょう」といわれた。

わたしの素性を知ったその人は、「一夜しかないなら、このそばのAu Lapin Agile(オ・ラパン・アジル)」に行きましょう。芸術家なら、あの場所を知っていた方がいい」と、サクレ・クールに近いキャバレーへいざなわれた。

画家のピカソやモディリアーニ、ユトリロや詩人たちが集ったというキャバレー、オ・ラパン・アジル。

それが、ピカソら「洗濯船(Bateau L’avoir)の画家たちがたむろしていたシャンソン酒場。ロートレックやルノアール、サティら、誰もが知る芸術家たちの社交家だった場所だ。

私はその夜、ピカソ自ら店に持ち込んだピエロの大きな絵(複製、本物はメトロポリタン美術館に収蔵されている)の前に案内され、本場のシャンソンを聞いたのだが、その時に不思議なインスピレーションを受けた。

当時難病がかなり悪く、体調不良に悩まされていたが、不思議な温かいエネルギーを注がれたように感じ、心の奥底で「自分はここで生まれ変わる」と感じた。