人間のダメな部分もひっくるめて
仕事を選ぶ基準なんてものは、別に何もないですよ。ほんと、何もない(笑)。どうでもいいなんて言ったら怒られるけれど、なんだろうなぁ、こういう仕事をやっている以上、いろいろな役がやってくる。いただいた仕事を、ひとつずつやっていくだけです。
ところがこの秋に主役を務める舞台『本日も休診』は、商業演劇としては珍しく、僕が発案、みたいなことになっちゃって。原作は、見川鯛山(みかわたいざん)という、那須高原で診療所を開いているお医者さんのエッセイ「田舎医者」シリーズです。
見川さんは、代々続くお医者さんの家系に生まれ、山麓の小さな診療所で辺地医療を全うされた。僕も何度かその診療所を訪ねたことがありますけど、本当にちっちゃな診療所でねぇ(笑)。重病人は診られないから、黒磯のほうの大きな病院を紹介して、村のお医者さんとして長年つとめられた。そのかたわら、村の人たちを題材に、面白おかしく脚色したエッセイを何冊も書いたんです。
10年以上前に、知り合いが持っている那須の別荘に行った時、見川先生の本があって。別荘の持ち主は、先生に診てもらったことがある、と。読んでみたら、これが面白くてねぇ。そういえば40年ちょっと前に、森繁久彌さんがテレビドラマでやっていらしたな、と思い出しました。
見川先生は、文章のほうでは獅子文六さんのお弟子さんだったそうで、那須の自然描写もすごくいいんですよ。冬は寒くて厳しいけれど、春にはばぁーっと生命力があふれる。その様子とか、目に浮かぶようでね。