苦手意識の克服は、「らしさ」から自分を解き放つこと

ひとつの方法は、その植物に関係した自分の動作を詠むことだ。

さきの触って、嗅いで、と似ているがその延長というか、カタクリを例にとれば、カタクリへ向かって斜面を登るとか、膝をつくとかいうことを詠んだ句が結構あるなと、句会で気づいた。

他人の動作を詠んだ句も、ある。カタクリの群れのそばに腰を下ろして休む人、など。

そういう詠み方が「カタクリらしい」かどうかは、わからない。が、自分では判断がつかないからこそ、人に読んでもらうのだ。ダメ出しをするのは自分ではなく、人に任せるつもりで、とにかくやる。

もうひとつ考えたいのは、さらに深い話になるが、「らしさ」にとらわれすぎていないかと。カタクリらしいか以前に、「俳句らしいか」と。

いろいろな季語の中でも特に植物に苦手意識があるのは、俳句は季節の詩、植物こそは季節を代表するもの、と構えてしまうからではないだろうか。

「俳句らしい」かどうかも、自分ではわからない。その判断も人に委ねて、「らしさ」を考えないようにしよう。そう割り切ってからは、植物が前ほど嫌ではなくなった。

苦手意識の克服は、「らしさ」から自分を解き放つこと。これも俳句を離れ、他のところでも試みていきたいことである。

※本稿は、『60歳、ひとりを楽しむ準備―人生を大切に生きる53のヒント』(講談社)の一部を再編集したものです。


『 60歳、ひとりを楽しむ準備 人生を大切に生きる53のヒント』好評発売中です

いくつになっても若々しい人の共通点は「これが幸せ」と言えるものを持っていること。60歳になれば、年金や住居など老後のための準備をすることはもちろん大事ですが、忘れていけないのが「心豊かに生きる準備」。老後の不安は尽きないけれど、だからこそ、自分の「好き」を見つけておきたい。名エッセイストで「NHK俳句」でもおなじみの岸本葉子さんが、旅や俳句、美容、暮らし方、トレーニングなどをとおして秘訣を教えます。