料理をしないのに『きょうの料理』担当に

しかし、現実は甘くはありません。徐々に、その道は狭められていくことになります。

『53歳の新人 NHKアナウンサーだった僕の転職』(著:内多勝康/新潮社)

『クローズアップ現代』はあくまで代行でしたので、東京に異動直後のメインの仕事は『きょうの料理』(2012年4月~2013年3月担当)でした。

みなさんも聞いたことがあるのではないでしょうか、「チャンチャカチャカチャカチャンチャンチャ~」という聞き馴染みのある音楽をバックに、僕はエプロンを着けて台所のセットに立つことを命じられたのです。

正直なところ、昔も今も料理はしませんし、もちろん希望を出したわけでもありません。最初は「なんで僕なの?」と正直ガッカリしましたし、料理番組ですから、僕がテーマとしている障害福祉の番組提案はどう頑張っても不可能です。

もちろん、自分の好きな仕事ばっかりできるわけではないですから、やれと言われた以上、一生懸命頑張りました。慣れない料理と格闘しながらも、『クローズアップ現代』から呼ばれればエプロンをとって、報道番組のキャスターの顔になります。

代行なので、いつ担当するか定まっていない不安定な立場でしたが、自分が企画・提案ができる可能性のある番組とつながっていることが支えとなっていたことは間違いありません。ある意味、「この番組がある限りは」と精神的に首の皮一枚つながっている状態でもありました。

担当番組が『きょうの料理』だけだったら、かなり辛くなっていたかもしれませんが、なんとかバランスはとれていたわけです。