人生は不思議なもの

「もう一度、歌いたい」と思ったものの、ステージに立つまでには時間がかかりました。2014年に最初に相談に乗っていただいた方に、「ブランクを埋めるのは並大抵のことではない」と諭され、その後も「以前とは違ってフリーランスなのだから、ライブをするのにしてもお膳立てをしてくれる人はいない。ライブハウスの手配から、チケットを売ることまで全部自分でしなければいけないけれど、それは大変なことですよ」とも言われました。「辛いことや悔しいことがたくさんあると腹をくくらなければできませんよ」とも言われて、泣いてばかりいた時期もありました。私のことを本気で考えてくださっているからこその厳しいご意見だとわかっていただけに絶望的な気持ちになり、実は一度諦めたのです。できないとか、やめたいではなく、子どものためにもやめたほうがいいかもしれない、別の道を探れというサインなのかもしれないという気持ちになってしまったのです。

でも時間の経過とともに、辻井さんの曲に出会った時のあふれる想いが蘇って来たり、渡米した時の勇気を思い出したり、あの時も大変だったけれど乗り越えたじゃないという心の声が聞こえて来たり……。私にはアメリカでは言葉が通じなかったけれど表現力さえあれば越えられるという信念があって。音楽は言葉を超えて人の心に届きます。私がどんなに辛くても歌う人生を選択しようと一念発起したのは、音楽に対する敬意や、音楽と出会えた自分の人生はなんて素晴らしいんだという湧き立つ思いがあったからです。歌うことが好きでたまらないという情熱に突き動かされ、2018年に都内のライブハウスで歌手活動を開始しました。

あの時、辻井さんのピアノ演奏を聴いていなかったら、今頃自分は何をしていたのだろう? と思うことがあります。もっと遡ってアメリカへ行っていなかったら? 歌手になっていなかったら? と考えてみると、本当に人生って不思議だなと思えてくるのです。ぐるりと回って元の場所に戻ることができたのは、たくさんの方々とのご縁に恵まれたからだと思っています。

「たくさんの方々とのご縁に恵まれたから戻ってくることができた」